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山形建築ツアー(庄内町編)

庄内町に新しい図書館がオープンするということで、オープン前にちらっと覗かせていただける
ことになり、事務所スタッフやインターンの学生さん共々、皆で庄内町に行ってきました。

アテンドいただいたSさんには感謝しかありません。
せっかく庄内町まで行くので、町内にある現代建築も見て回ろうと思いました。

手前が新しい町立図書館(2023年第一期竣工、設計:シーラカンスK&H)。屋根が
二段構成になっていて思った以上に軒先が低く、外壁も周りの建物に合わせたのか
渋い色合いですでに町なかに馴染んでいます。

奥に見える内藤秀因水彩記念館(1992年竣工、設計:本間利雄設計事務所)も第二期
工事で改修され、図書館と接続されるようです。

図書館の目の前にある、巨大なキャノピーが印象的な庄内町役場(2021年竣工、設計:
香山壽夫建築研究所)。本間利雄氏とも親交の深かった香山氏がプロポーザルで
勝ち取ったこの仕事、雪国の建築的要素「雁木」が超巨大化してロビー自体を覆った
ようにも見えます。

無骨な印象の外観に対して、内部は思ったよりも木質化され、優しい印象を受けます。
床のフローリング、天井のルーバー、家具や階段の段板も木で統一されているのと、
2層吹き抜けのカーテンウォール(ガラス面)のマリオン(方立)に集成材が使われて
いるのが大きな格子状にも見えて、なおさら柔らかなイメージを持たせてくれます。

最上階の議場も品のある木製家具でしっかりつくられ、ハイサイドライトも含めて
複雑な形状の天井も明るく仕上げられていました。

役場、図書館と、町の中心がここ数年で一気に様変わりした形になります。

次は町役場から1kmも離れていないものの田圃の中にポツンと建つ、町の文化創造館へ。
響ホール(1999年竣工、設計:山下設計東北支社、音響設計協力:永田音響設計)は
約560席の大ホールと約200席の小ホールをもつ町民ホールです。

四方が開かれたロケーションなので、小ホール越しにも外が見通せて開放感があります。
この日は何も使われていなかったので、中にも入れず勿体ない感じ。

大ホールのホワイエ部分。500席規模のホールの共用部として適度な大きさです。
築後20数年経っていますが、あまりくたびれた感じはなく、キレイに維持されています。

2階の廊下は曇り空でもトップライトから光が降り注ぐ、町民ギャラリーのようですが、
特に展示もなく、こちらも勿体ない印象。

おそらく晴れた日には月山が見えるであろう2階の喫茶コーナーは、コロナ対策の
名残なのか、施錠されて入れず残念。

続いて、少し町場に戻って、庄内町ギャラリー温泉「町湯」(2014年竣工、設計:
設計・計画高谷時彦事務所)へ。東北建築賞作品賞(日本建築学会東北支部)も受賞
している良作建築です。

想像した以上に町中にあるため、駐車場に囲まれた環境となっています。
そんな中でも、伸びやかな屋根の水平線がこの場所の独自性を保持しています。

この建物の最大の特徴は、「土縁ギャラリー」と呼ばれる町家の通り庭をイメージした
ギャラリー付き休憩所。壁面にあるギャラリーボックスは企画ごとに様々な作家の
展示が行なわれるようですが、行ったときはちょうど展示の入れ替えのタイミングで
空の状態。休憩所は当初床座だったようですが、現在は椅子テーブル式となっています。

運営は町から民間に移行したようで、物や掲示がだいぶ増えているようですが、
建築の骨格やコンセプトはそのまま感じることができます。

テナントにラーメン屋が入ったり、座敷を平日はコワーキングスペースにも使えたり、
日々進化していく様子が見られました。

町湯から少しだけ移動して、JR余目駅の目の前。
庄内町新産業創造館クラッセ(2014年竣工、設計:羽田設計事務所)もまた、東北建築賞
作品賞を受賞しているリノベーション事例です。

元は90年ほど前に建てられた農協倉庫で、日本有数の稲作地帯である庄内平野を象徴する
米蔵として、日本一の規模を誇る建物です。葺き替えられた白い瓦屋根は、元々倉庫の
温度を低く抑えるための工夫であり、大屋根が全面覆われる様は圧巻です。

パン屋や土産物処、フレッシュジュース店など、いくつかのお店が入り賑やかな印象も
ある一方、メインの飲食テナントが抜けた場所はフリースペースとして開放されていました。

ツアーの最後は、庄内町と隣接する旧平田町(現・酒田市)に建つひらたタウンセンター
(2002年竣工、設計:富永譲+フォルムシステム設計研究所)へ。
せんだいメディアテークと同じく2003年度日本建築学会賞(作品)を受賞した建築です。

徹底して低く抑えられたスカイラインと、それに合うようになだらかに広がったランド
スケープがこの庄内の風景に透けるように同化しているのがアプローチからもわかります。

90年代から00年代の雰囲気もありつつ、この周囲ではあまり見ないモダンな空間の中、
一人で本を読んでいたりグループで談笑している女性達が居たり、思った以上に
自然に日常を過ごしている人の姿が見られ、とても好感の持てる空気感がありました。

2層吹き抜けの部分も多く細かいディテールも美しいのですが、公共施設にしては
かなり低めに天井高を抑えているところも多く、そのヒューマンスケールが内包されて
いることで居心地の良さにも繋がっているようでした。

 

館内では彫刻家・峯田義郎氏の作品も見られます。
外の庄内平野がガラスに反射して広がりを生むのも素敵です。

200席ほどのホールと図書館、展示ギャラリーなどが設けられ、健康福祉センター、
社会福祉協議会、商工会なども共存しています。

そのためか、老若男女さまざまな年代の方が思い思いに居場所を見つけているという
状況が築かれていました。地域の規模にも丁度よいスケール感なのかもしれません。

派手さも奇抜さもなく、看板がなければむしろ周囲の建物に埋もれてしまいそうなほどの
主張を抑えた外観です。それがかえって、周辺環境である庄内平野の水平性や
田園風景を強調させていたようにも思います。

少し小雨交じりの天気の中ではありましたが、一つの小さな町で優れた現代建築がここまで
いくつも見られる庄内町(+旧平田町)は、県内でもなかなかの建築王国といえるかも
しれません。良質な建築を見るだけでも、いろんな学びが得られます。
こうした建築ツアーを、各地でもっとしていきたいですね。

 

 

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