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worksを更新しました(千代寿虎屋ファクトリーショップ)

「千代寿虎屋ファクトリーショップ」の写真をアップしました。寒河江市にある
創業100年を超える老舗酒造の本社工場に併設した直売所と試飲スペースの改装です。

この千代寿虎屋さんは、山形市で創業300年を数える虎屋さんの寒河江工場として、
元禄末期創業の石山蔵を引き継ぎ操業されていたものを、1922年に分家独立して
興した会社になります。

寒河江には、その昔東北の宮水といわれた硬水が随所にこんこんと湧き出ていたこと、
そして冷たい寒河江川の灌漑地域は、酒米「豊国」の産地であったこと、それらが
今に続く虎屋さんの酒造りの原点といえるかもしれません。

増改築を繰り返した建物は、いくつもの時代を経て蓄積された記憶が宿っている
ようです。玄関口の大きな格子戸は足元に車輪が付き、ゆっくり開閉します。

この写真は改装前の様子。本社出入口すぐの事務室と、隣接した応接室が改装対象と
なりました。元々、工場見学の際には道路を挟んで向かいにある小さな蔵を展示スペース
などにしていたそうですが、見学後すぐに試飲や販売ができる場所が工場側にも
ないとせっかくの購買意欲も削がれてしまうという課題があったようです。

こちらも改装前の事務室。脇に商品の陳列棚があったり、ちょっとしたカウンターは
あったのですが、事務スペースが丸見えで初めて訪れる人は入るのも躊躇う感じが
あったため、隣接する応接室含め一体的に改善できればと考えました。

改装後の事務室。手前の人研ぎ仕上げの土間はそのままに、一段上がった事務スペース
との間に大きなカウンターを設けました。奥の事務机や荷物があまり見えないように
ラワンベニヤのパーティションで目隠しを立てています。

カウンターの上には、土間と事務スペースとの結界をさりげなく表現するために
真鍮色のペンダントライトを吊り下げています。

新旧の素材がぶつかる入隅部分。ここでは、カウンターの腰壁部分の杉板だけが
新しく加わった素材です。杉は板目で、赤身と白太が混ざっていますが、うっすらと
周囲に合わせて着色したことで自然な縞模様となっています。

事務室土間に並べてあった商品棚はすべて取り外し、新たに応接室を改装したエリアに
並べ直しました。間仕切りのガラス越しに酒瓶のディスプレイが見えます。

新たな陳列棚は、地元の西山杉を使い、すべての商品ラインナップが一目でわかる
ようにしています。棚に仕込んだ照明で、一つ一つの銘柄も浮かび上がります。

日本第一の酒造神として知られる松尾大社の木像は、改装前からあったもの。
改装後も飾り棚の中に鎮座しています。

元々行き来はできなかった旧応接室側にもお客さんが土足のままアクセスできるように
しています。お酒のディスプレイに誘われるように、試飲スペースに入っていきます。

旧応接室の意匠はそのままに、ディスプレイ棚とカウンターをL型に入れ込んでいます。
奥に見える神棚は元々あったもの。カウンターの外側は床を掘り下げ、壁は墨入り
モルタルで塗り直しています。

暖色系の照明の効果も相まって、既存の天井ともよく馴染んでいます。
この中の何本かは常に試飲できるようにカウンターに準備されています。

L型に回したことで空間に奥行きが生まれ、商品もより立体的に浮かび上がります。
工場内からも見えるような形になっています。

工場に入るとすぐ、虎屋さんの酒造りを物語る、歴代の社長や杜氏の方の写真が並び、
100年続く酒造りを見守っています。

古くから残る土蔵が建ち並ぶ工場見学を終えて戻ってくると、ほの暗い工場の中で
ぽっと蝋燭が灯ったようなファクトリーショップの姿が安心感を与えてくれます。

見学後の余韻の中で、試しにいくつかの日本酒を味見しながら、お土産をどれにしようか
考えたり、酒造りを取材に来た人が説明を聞きながら理解を深める場になったりと、
つくる工場の機能を一段拡張させる体験の場を提供しています。

 

 

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