2024.08.20
worksを更新しました(図書館中央分館・中央公民館)
昨年竣工した3事例について、ウェブサイトのworksを更新しました。
「山形市立図書館中央分館・中央公民館リニューアル」は、山形市七日町の官民複合
ビルに入居する図書館と公民館(学習スペース)の改修です。
改修前の図書館中央分館は、フロアの奥にあって存在感が薄く、蛍光灯もまばらで
暗い印象で、床もツヤのあるPタイルが冷たく硬い施設の感じを強くしていました。
ガラスのショーケースに山形市の伝統工芸品を納めただけの展示コーナーも昭和の
古めかしさを留めていて、何より施設イメージの一新が求められました。
改修前の学習スペースは、事務室前に長机を並べて既存の展示壁で区切っただけの
閉ざされた印象で、学習形態の幅が非常に限られていました。
個人学習だけでなく、友人との教え合いやグループでの共同学習、団体でのワーク
ショップなど、幅広く多様な学びの居場所を用意し、選択肢の幅を広げることを目指しました。
七日町大通りに面する、官民複合ビル「アズ七日町」。1~3階までが民間の商業テナント
が入り、4階から上が山形市中央公民館となり、図書館やホールなどが入ります。
アズ七日町からまっすぐ東にのびる道路は、「七日町一番街」。古くは山形と仙台を結ぶ
笹谷街道の起終地点だった場所です。一番街から見上げると、今回改修した4、5階の
窓辺のガラスがわかります。
街ゆく人に、5階に図書館があるのを少しでも気づいてもらうため、返却用のブック
ポストを兼ねた立体サインを軒下空間に配置しました。
ポストに描かれた怪しげな緑の生き物は、本自体が人に寄り添ってくるような関係性を
表現したキャラクターで、館内にさまざまな表情をして点在しています。
5階まではエスカレーターを乗り継ぐか、エレベーターで上がってくることもできますが、
下階から上がってきたときにパッと顔を上げると、東の空が広がります。
5階のメインフロアは床一面を濃藍色のカーペットで敷き詰めました。歩行感が優しく
なり、足音も響かずゆったりと館内を歩いて回れます。
伝統工芸品のショーケースは取りやめ、代わりに一人掛けのソファを多く配置して
ブラウジングコーナーとしてゆっくり読めるスペースをつくりました。
以前は奥にあってアクセス性と視認性の低かったカウンターを、書架入り口近くに移し、
管理シャッターの手前には可動式の展示書架を配置できるようにしました。
書架はなるべく既存のものを再利用し、置く向きを90度変えることで、書架スペース
の奥まで視線が通りわかりやすい構成に修正しました。
天井周りは極力いじらず、工事費を抑えながら、間接照明やペンダント照明を増やす
ことで可能な限り明るく温かみのある空間にしていきました。
限られたスペースの中で、改修前には無かった書架脇のスツールを点在させ、ちょっと
腰を下ろすスペースやその場で閲覧できる場所を設けました。
西側の窓も開放すれば、東西に光が抜ける形にもなり、これまでのイメージとはまったく
変わるようになりました。目線に近い位置のスタンドライトの灯りも、落ち着きを
与えてくれます。
市役所の方のアイディアで、マンガの1巻目だけを置く本棚も設置。
続きを読みたい人は、すぐ近くにある街なかの書店に行きたくなります。
蔵王連峰が望める東の窓辺には、長いカウンター席を設置しました。
ブックラウンジの一角でもあり、ゆっくり図書館の本を読む人や、パソコンを開いて
作業する人など、思い思いに過ごせる居場所となっています。
かつての遊戯室を、キッズスペースに改修。
ガラスブロックは既存のものですが、その中に温かみのある木製本棚が見えます。
以前は靴脱ぎ場が外にしかなく、土足とフラットだった遊戯室は、靴脱ぎ場を室内に設け
一段高くすることでゴロゴロ子どもたちが寝転びながら本を読んだり、読み聞かせができる
カーペット敷きの部屋にしました。
切り株状の本棚の内部は、授乳スペースをなっています。
濃藍色のカーペットが、書架スペースだけでなく東側のブックラウンジにも敷かれ、
5階フロア全体が図書館の新たな空気感をつくり出しています。所々に置かれた本棚は
24ミリの構造用合板でつくった本箱を組み合わせたようなデザインとし、パーティションも
兼ねています。
このブックラウンジは書架スペースがクローズになっても使え、平日夜間は22時まで
利用できます。七日町の街を見下ろしたり、東の山々を眺めたり、それぞれが自由に
時間を過ごすことができる場所です。
東の窓辺から彼方に見えるのは、蔵王連峰の一角、雁戸山。
藍色にも見える山並みは、斎藤茂吉の歌にも詠まれています。
「蔵王より ひくき雁戸の あゐ(藍)色を しばし恋しむ 雪のはだらも」
4階のワークスペース。テーブル席にてグループワークに対応可能。
半透明のカーテンで緩やかに仕切ることで、事務所からの視線等を調整できます。
床のパーケットフローリングは既存のもの。周りが変わると同じ素材でも印象が変わります。
4階の窓辺にもカウンター席を新設。こちらは個別学習ができるスペース。
試験前ともなると、空席なくビッシリ地元の高校生たちで埋まります。
エスカレータの先に見えるギャラリーもまた、ギャラリーの貸出しがされていないときは
学習スペースとして開放されています。
4階事務室側から見たところ。手前のカーテンを開け放つと、かなり広々と見えます。
テーブル席は、何人かの仲間で集まって学習したり、知らない人同士でも共有しながら
ほどよい緊張感も生まれています。
市内の様々な学校の生徒が、部活や塾以外で、放課後に同じ空間を共有しているのは
なかなか珍しい光景だと思います。
4階へのアクセスではエレベータも多く利用されます。エレベータを降りてすぐ視線が
合わないように、階段室やエレベーターホールとの間にもカーテンが回ります。
日中は子供連れや学生などの利用が多いですが、夕方になるにつれ学校帰りの中高生の
姿が多く見られるようになります。リニューアルによってここまで使われるように
なるのは関係者も嬉しい悲鳴といえます。
書架スペース以外のブラウジングコーナーやブックラウンジでは飲食が可能です。
低層階が商業フロアになっているので、お昼休みにここで休んでいる店員さんの姿も
見られます。お菓子とジュース片手に自分の世界に入っている近所の小学生も居ます。
既存の蛍光灯をLED照明に更新して、消費電力を格段に抑えつつ、暗くならないように
しています。また、人の目線に近い位置にスタンドライトの明りを置くことで、
落ち着いた印象を与えています。
ブラウジングコーナー脇にある談話室は、改修工事は行なっていませんが、周りの
環境が新しくなることで居場所として利用されるようになりました。
西側の窓辺にもカウンター席を設けていますが、季節によっては夕焼けが綺麗に
差し込んできます。通常はロールスクリーンで対応しますが、黄昏時の幻想的な
光景が印象に残ります。
館内各所にさりげなく点在しているサイン。
そこに描かれたストーリーも必見です。
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